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量子コンピュータの現在とこれから

「50~100qubitある量子コンピュータは今日の古典コンピュータの性能を上回るかもしれない」 - NASAの研究所で行われたQ2B Conferenceでカリフォルニア工科大学のJohn Preskillはそう唱えた。
ただ、彼はそれに「しかしながら、量子にあるノイズにより、信頼可能な計算をするために量子回路のサイズを制限せざるを得ない」と付け加えた。これがどういう意味か解き明かして行こう。

量子コンピュータとは

そもそも量子コンピュータとは何者なのか。日頃、私たちが使っている古典コンピュータは論理素子(bit)が「0」か「1」のどちらかの状態をとり、それを用いて計算を行う。それに対して、量子コンピュータとは量子力学的な重ね合わせを用いる。量子コンピュータで用いられる量子ビット(qubit)は「0」と「1」を重ね合わせた状態で操作を行って、計算を行う。この性質を用いると、例えば10個の量子ビット(10qubit)を準備すれば、210の1024通りの重ね合わせ状態を確定させることなく保持している状態を作ることができる。もし、300qubit準備できれば、2300 = 2.0 x 1090と宇宙上の全ての原子の数より多い場合の数の可能性が重ね合わさった状態になる。問題を解く時、たくさんの可能性の重ね合わせの中からもっともらしい答えを高確率で得ることができ、従来のコンピュータよりも指数的に高速に計算をすることができる。量子力学の法則に従っている電子の振る舞いのシミュレーション(量子シミュレーション)や素因数分解の高速化が代表例だ。

量子コンピュータの現在

この量子コンピュータを実用化させようと現在IBM・Googleやベンチャー企業までもが競って開発をしている。彼らが現在目指しているのは「量子スプレマシー(量子超越性)」だ。量子超越性はPreskillが2012年に提唱した言葉で、量子コンピュータが得意な問題(例えば量子コンピュータの入力から出力を予想する)を解いた時に古典コンピュータを計算速度で上回ることだ。(詳しくは別記事 量子コンピュータの挑戦: スーパーコンピュータに勝てるだろうか?参照)50qubit前後で量子超越性が証明できそうであり、その実現はもう目前であると言われている。彼は「これは人類の重要なマイルストーンになる」と言った。これは逆に、現在実現されている量子コンピュータはその振る舞いをスーパーコンピューターでシミュレートできてしまうということだ。

38239092692_315b8e4acb_kIBM 50Q System (IBM Q Research/Flickrより)

現在各社が競って開発している量子コンピュータには誤り訂正という機能がない。これは、計算が途中で誤ってしまってもそれを知ることなく計算を続けて、滅茶苦茶な答えを出すことがあるということだ。現在の古典コンピュータでもエラーは起きる。ただ、誤りを検知して訂正をすることによって我々は常に正しい計算結果を得ている。量子コンピュータは環境の影響で重ね合わせの状態が崩れやすく、量子特有の相関(量子もつれ)を維持するのが難しい。この問題を解決するために、量子コンピュータにも古典コンピュータと同じように量子誤り訂正が提案されているが、技術的な実装の難易度が高く、たった1qubitの誤り訂正マシンが実現するのにもあと数年かかると言われている。そのため、現在は誤り率を可能な限り減らし、何千回と同じ計算を繰り返し正しそうな解を選ぶことしかできない。このため、量子誤り訂正を行わないマシンを使う限り量子ビット数を制限したり、演算回数が多い問題が解けない。

このことを踏まえて、今はNISQの時代とPreskillは定義した。NISQとはNoisy Intermediate-Scale Quantum Computerのことで、ノイズがありスケールしない量子コンピュータのことである。それでも、分子同士の化学反応等をシュミュレートする量子化学計算等において、100qubit程度のノイズあり量子コンピュータでも古典コンピュータを上回るかもしれないと言われている。

量子コンピュータのこれから

量子コンピュータが特定の問題を解くことにおいて古典コンピュータを上回ることを「量子加速」と呼ぶ。これは最速のハードウェアを使用した量子コンピュータと古典コンピュータで、それぞれ最適のアルゴリズムを走らせて同じ問題を解いた時、量子コンピュータの方が速くなることを指す。前述の量子超越性は、量子コンピュータの振る舞いを古典コンピュータにシミュレーションさせる等の量子コンピュータが得意な問題設定に対して、量子加速では実用的な問題においての超越性を示すマイルストーンになる。また量子加速が実証されたら、qubit数の増加と共に指数的に量子コンピュータが速くなることが期待できる。ただ、このように最適化問題や量子化学計算など、現在従来型の古典コンピュータが主戦場とする役に立つ問題においてNISQマシンで量子加速が実現できるかは不明であると言われている。

よって、量子コンピュータのハードウェア開発において、エラーレートが低いマシンが特に重要である。それにより、短期的にはNISQマシンの計算能力が上がる。さらに、これによって量子誤り訂正を行うコストが低下し、長期的には量子誤り耐性の実現に近づく。

「本当に未来を変える量子技術はエラー耐性のある量子コンピュータである。NISQマシンの可能性を探りながら、私たちは長期的なゴールである量子誤り耐性のある量子コンピュータの時代の到来を早めることを見失ってはいけない。」とPreskillは締めくくった。


Q2Bでの講演の映像と資料
https://www.q2b.us/

Quantum Computing in the NISQ era and beyond (John Preskill)
https://arxiv.org/abs/1801.00862

量子コンピュータの現在とこれから
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